オタ福の相談部屋

あなたの主治医はどう言いましたか?

蛋白漏出性腸症疑いで治療中です。何か気をつけることはありますか?

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【はじめに】

今回は『蛋白漏出性腸症疑いで治療中』の飼い主さんから頂いたご質問です。
蛋白漏出性腸症と診断を受け、プレドニゾロンによる治療を行っていますが、その他に食事などで何か気をつける必要はあるのでしょうか?今回はそういったご質問に回答していきたいと思います。

 

【ご質問内容】

『臨床経過と診断』

去勢雄、8歳と7ヶ月のM.ピンシャーについてです。
もともと便の回数は多く(1時間の散歩で4,5回)最後は絞り出すように便をしていました。

2ヶ月ほどの間、ときどき水っぽい下痢をしていました。急に元気がなくなり、体重が減ってきたため、動物病院へ来院しました。

検査の結果、血液検査、尿検査、便検査を行い、アルブミンが1.3で、エコーとレントゲン検査を受けました。腹水も少したまっていたようです。

検査の結果、『蛋白漏出性腸症』と診断されました。現在はプレドニゾロンによる投薬中で、状態は快方に向かっています。

『質問内容①』

ステロイドが効いているので、現段階でリンパ腫の疑いはないと思いますが、考えられるのはリンパ管拡張か慢性腸炎となりますか?

『質問内容②』

食餌療法については何も言われておらず、投薬と並行して行うほうが良いのではと思うのですが、いかがでしょうか?

 

【回答】  

『蛋白漏出性腸症とは?』

蛋白漏出性腸症と診断されたそうですね。
蛋白漏出性腸症とは『血漿蛋白質が腸粘膜から腸管腔へ異常に漏出することによって起こる症候群』と定義されています。

診断に必要な検査
・血液検査
・糞便検査
・超音波検査
・レントゲン検査
・内視鏡検査
を行い、『蛋白漏出性を疑う所見』と『蛋白漏出性腸症以外の疾患を除外する所見』を集めて、おそらく「蛋白漏出性腸症だろう」と診断していきます。確実に診断をするためには全身麻酔下での内視鏡や試験開腹による生検が必要になります。

今回の検査では便検査などを行い、感染症を除外してからステロイドを投薬しているので治療的診断としてはとてもセオリー通りに行われていると思います。

蛋白漏出性腸症の原因
・腸管型リンパ腫
・IBD
・腸リンパ管拡張症
が主な原因となります。

『蛋白漏出性腸症』については下記の記事で簡単に解説しています。

www.otahuku8.jp

 

『ステロイドが効いているということは?』

IBDはステロイドが効きやすい
この中で、ステロイドの効きが最も良いのはIBDです。IBDによる蛋白漏出性腸症の場合、腸の炎症が腸の近くを走っているリンパ管に波及し、リンパ管が腫れ上がってしまうことで詰まってしまう病気です。そのため、腫れ(炎症)を抑えるためのプレドニゾロンが有効というわけです。

もちろん、IBDであってもプレドニゾロン単体では奏効しない場合はあります。そんな時はプレドニゾロンの他にも『免疫抑制剤』と呼ばれる薬を併用することがあります。

腸リンパ管拡張症は効きづらい?
一方で、腸リンパ管拡張症は原因不明でリンパ管が詰まって起こる病気なので、ステロイドはあまり効きません。

一応、治療方針としては『薬物療法(プレドニゾロンなど)』+『食事療法』を採用します。プレドニゾロンなどの免疫抑制剤が効くケースもありますが、論文をちょくちょく読んでいると「単にIBDに続発したリンパ管拡張症だから効いただけじゃないの?」という意見もあるようで、薬物療法に関しては意見が分かれているようです。

 

 

腸管型リンパ腫ではどうだろう?
腸管型リンパ腫には悪性度の高い『高悪性度リンパ腫』と悪性度の低い『低悪性度リンパ腫』があります。そして、それぞれに適した治療法があります。

まずは高悪性度リンパ腫についてです。
高悪性度リンパ腫では『UW-25という抗がん剤プロトコルが一般的に使用されます。

UW-25で使用される薬
・シクロホスファミド
・ドキソルビシン
・ビンクリスチン
・プレドニゾロン 
・(L-アスパラギナーゼ)←レスキュー用に置いておくことが多い

高悪性度リンパ腫を治療するプロトコルの一つにプレドニゾロンが入っていますが、今回の症例のようにプレドニゾロン単体で使用し、快方に向かうということは『高悪性度リンパ腫』では考えにくいかと思います。

続いて、低悪性度リンパ腫についてです。
低悪性度リンパ腫では『クロラムブシル+プレドニゾロン』または『メルファラン+プレドニゾロン』という組み合わせで治療を行います。
イメージとしては、「プレドニゾロンと一種類の抗がん剤をセットで使用する」といった感じです。

この治療法は元々は慢性リンパ球性白血病(CLL)と呼ばれる疾患で使用されていた治療方法で、腸管型低悪性度リンパ腫に応用されるようになりました。最近では、低悪性度リンパ腫はこの治療法が一般的なようです。

Two dogs had resection of an intestinal mass, and all dogs were treated with chemotherapy; chlorambucil and prednisone were most commonly prescribed.引用文献:Low-grade gastrointestinal lymphoma in dogs: 20 cases (2010 to 2016).

IBDでもプレドニゾロンとクロラムブシルをセットで使用する治療法がありますが、通常の免疫抑制剤では効果が得られない時に切り札的な扱いで使用されます。

 

 

『質問①に対する回答』 

今回の場合、上述で説明したことを踏まえて、IBDに続発した蛋白漏出性腸症の可能性が高いかと思います。
IBDは中年齢(7歳ぐらい)以上の犬に好発です。
IBDの確定診断を行うためには内視鏡検査による腸粘膜の生検が必要になりますが、症状も快方に向かっているようですし、ご希望なされないならばそのような検査は行わなくても大丈夫だと思います。

 

『質問②に対する回答』 

食餌療法についてですが、蛋白漏出性腸症の場合でお勧めされているのが、『超低脂肪食』です。脂質が多い食事を摂ってしまうとリンパ管の灌流を刺激してしまうので、よくありません。

とにかく消化管の負担を避けるために、脂肪分の少ないご飯をあげる必要があります。超低脂肪食としてササミとジャガイモを用いたハンドメイド食などがありますが、かなり栄養が傾く療法食で、サプリメントなどでビタミンなどを補填してあげる必要が出てきます。

具体的な食事療法については僕よりも犬の全身状態を知っておられるホームドクターさんの判断にお任せしたいと思います。 

【最後に】

今回は前半にプレドニゾロンが効く効かないで、蛋白漏出性腸症の原因を振り分けていきました。実際はもう少し複雑なので、こんな風に単一的な診断を行うことはできないということをお伝えしておきます。

蛋白漏出性腸症は血漿蛋白が漏れ出てしまう病気です。投薬によってうまくコントロールできるかが、予後の良し悪しを分けるポイントと言えるでしょう。

【本記事の参考書籍】

日本獣医内科学アカデミー編 : 獣医内科学 第2版, 文英堂出版, 2014, 226-228p

Stephen J. Ettinger ; Edward C. Feldman ; Etienne Cote : Textbook of veterinary internal medicine. 8th ed., ELSEVIER, 2017, 1558-1559p

 

【関連記事】

『IBDについて』

www.otahuku8.jp

『腸管型リンパ腫について』

www.otahuku8.jp

『低蛋白血症について』

www.otahuku8.jp

『免疫抑制剤について』

www.otahuku8.jp